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東京高等裁判所 昭和52年(ラ)358号 決定

抗告人

日本不動産証券株式会社

右代表者

中村鶴治

右代理人

水上喜景

外二名

相手方

川村真三

外二名

主文

原決定を次のとおり変更する。

右当事者間の前橋地方裁判所高崎支部昭和四五年(ワ)第二〇二号所有権移転登記抹消登記手続事件、東京高等裁判所昭和四八年(ネ)第九七九号同控訴事件につき、抗告人の負担すべき訴訟費用額を、原決定の別紙計算書一枚目表三行目「金一一万八、〇〇〇円」とある部分を「金五、一〇〇円」と、同裏一二行目「小計金一二万八、一四五円」とある部分を「小計金一万五、二四五円」と、同二枚目裏七行目「合計金一五万四、五五五円」とある部分を「合計金四万一、六五五円」と訂正した計算書のとおり、金四万一、六五五円と確定する。

抗告費用は相手方らの負担とする。

理由

抗告人代理人は、原決定の取消し及び相当の裁判を求め、抗告理由は別紙のとおりである。

記録によると、相手方ら三名は、抗告人を被告として、前橋地方裁判所高崎支部に対し昭和四五年八月六日六筆の不動産につき売買契約の解除を理由として、その履行としてした所有権移転登記の抹消登記手続を請求する訴を提起し、その訴状に一一万八、〇〇〇円の印紙を貼用し、右訴訟が同庁昭和四五年(ワ)第二〇二号事件として係属進行中、相手方らは昭和四七年二月三日第一審第六回口頭弁論期日に、右訴を右売買契約の残代金六〇万円の支払、または、同金額の不当利得返還請求の訴に交換的な訴の変更をしたが、右請求趣旨を訂正した書面には印紙を貼用しなかつたこと、相手方らは第一審でその請求を棄却され、これに対して控訴し、東京高等裁判所に同庁昭和四八年(ネ)第九七九号事件として係属し、相手方らは右控訴審においても右金六〇万円の請求をその請求原因を残代金請求(但し、相手方らにつき各金二〇万円宛)に特定して維持し、控訴審で審理の結果上、同裁判所は原判決を取り消して相手方らの請求を認容し、訴訟費用については第一、二審とも抗告人の負担とする旨判決し、抗告人がこれに対して上告したが上告却下され、右控訴審判決が確定したことが認められる。

右事実によると、当初の登記抹消請求は訴の交換的変更により取り下げられて終了し、それ以後は新訴の金六〇万円の残代金請求ないし不当利得返還請求が訴訟物である。したがつて、登記抹消請求の訴訟物につき貼用した印紙一一万八、〇〇〇円は、右控訴審判決の訴訟費用負担の裁判の対象となつていないから、右訴訟費用負担の裁判と一体となるべき本件訴訟費用額確定の裁判において、これをそのまま訴訟費用として算定することは許されないのに、原決定はその金額を訴訟費用と算定したものであるから、この点において原決定は違法であることを免れない。

ところで、民事訴訟費用等に関する法律三条一項、別表第一の五は、訴訟係属後請求を変更した場合に納めるべき手数料の額につき、変更後の請求の目的の価額によつて算出された手数料額から変更前の請求にかかる手数料の額を控除した額の手数料を納めれば足りるとしているが、これは、基礎を同じくする両請求が同一手続間において継続的に提起されたものであることにかんがみ、納付すべき手数料についても、両請求の目的の間に共通性があり、両者は実質的に一体をなすものとしてこれを計算すべきものとしたものと考えられる。この法意に照らすときは、請求の変更がいわゆる訴の交換的変更としてなされた場合についてもこれを異別に扱うべき理由はなく、右規定によつて新請求についての手数料の額を決定すべきであり、したがつて、この場合、取下によつて終了した旧請求について、すでに納められた手数料は、新請求につき独立に計算された手数料の額と重複する限度において後者に引き継がれ、右新請求について納められた手数料としての効果を有することとなるのである。そうすると、本件において前記訴の交換的変更によつて取り下げられた旧請求につき訴状に貼布された印紙一一万八、〇〇〇円のうち、新請求につき貼用すべき印紙五、一〇〇円(同法三条一項別表第一の一による)相当分は、新請求提起の昭和四七年二月三日その新請求のため貼用されたと同一の効果を生じたものであり(新請求につき印紙を貼用させていないのはそのためである。)、したがつて、右五、一〇〇円が前記訴訟費用負担の裁判の対象となる訴訟費用というべきである。以上の点を除いては原決定添附計算書のその余の計算は相当であるから、抗告人の負担すべき訴訟費用額は、結局、合計金四万一、五九五円となるわけである。〈以下、省略〉

(中村治朗 石川義夫 高木積夫)

抗告理由〈省略〉

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